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【映画】ロレンツォのオイル/命の詩;それぞれの立場から

先日の希望のちからに続いて、実話に基づいた、難病の治療法(ないし、予防法)の発見に関するお話です。

ロレンツォのオイル/命の詩

概略はここに書かれているとおりで、ロレンツォのオイル/命の詩 – Wikipedia
ALD(副腎白質ディストロフィー)という、1984年当時、発見からまもなく、治療法はもちろん、病態すら解明されていなかった難病にかかった子供を救うべく、両親が(医者でも研究者でも無いのですが)、論文を調べ、病態解明の糸口をつかみ、オリーブオイルに含まれるオレイン酸が治療に結びつくのでは無いか、と考えつく、という話です。

息子ロレンツォの発症後、ALDが、治療法も無い致死性の難病である(様々な症状を伴って、発症からおよそ2年で死亡する)こと、そしてこの病気が伴性遺伝(母親のX染色体に乗っている遺伝子に異常があると、“男の子”には、1/2の確率で遺伝する。女性はX染色体を二つ持っている=正常な遺伝子も持っているので発症しない)であることを知らされた母ミケーラ(スーザン・サランドン)は、おそらくその意識もあって、なんとしてでも自分が治してやる、と、文字通り身を削ってロレンツォの看病にあたり、そして治療法の糸口をつかもうと必死に・・・ロレンツォだけが人生では無いと考える妹や、これ以上苦しませたくないとほのめかす看護師、心が無い(本を読んでも聞こえていない)のにと考える看護師を追い出してまで、看病を続ける。

一方、ALDの病態である脂質代謝異常(極長鎖脂肪酸VLCFAが蓄積する)にオレイン酸が効くのではないかと考えた両親は、精製したオレイン酸を手に入れ飲ませ始める。(極長鎖脂肪酸を下げる)効果は半分程度でとどまり、さらに、菜種油に含まれるーつまり、我々日本人や中国人が、長い間食用にしてきた油に含まれるーエルカ酸が効くはず、と考え、その併用を考える。
しかし、エルカ酸投与は心臓にダメージを与えるとの報告が有り(オレイン酸も、量が多いと、肝臓にダメージを与える可能性があったのですが)、協力してくれていた医師も、これには賛成できない。さらに、薬にもならないエルカ酸を精製してくれる製薬会社など無く、二人は、定年間近の老科学者に精製を依頼することになる・・・

ここまで、いろんな人の立場が淡々と、かつ鋭く描かれています。まずは、両親。これは、なんとしてでも息子ロレンツォを助けたい、と必死な立場です。だから、これが効くかも、と言われれば(言われたのでは無くて、自分で考えついたのですが)、すがる思いでそれを試したいと思う。少しでも数値が下がれば、“効いた”と思いたい。一方、医師側は、これは、一般の人や、まして家族側から見ると冷たいと思われても仕方が無いのでしょうが、“一人に効果があったからと言って、それが効いたとは言えない。厳密な比較をして、統計を考えないと意味が無い“と考えます。これは、一人の患者を治しても意味が無いと言うのではなくて(しかし、家族はそう捉えてしまう)、本当にこの病気に対して効果があるかどうかを考えるわけで
すから、そう考えるしか無い。この辺は、さきの希望の力に描かれていた、すがる思いで治験に参加したがる患者に対して、条件を満たさないために加えられない(温情で加えると、統計が成り立たなくなって効果の判定が出来なくなる=次の患者が困ることになる)と告げる医師の立場と同じですね。

さらには、子供だけが人生では無い(と言うより、母親まで倒れては意味が無い)と考える妹の立場も当然理解できるし、また患者の家族の支援団体の代表は、(効くか効かないかわからないもので)“儚い希望を与えたくない”と考えます。これは、一件、医者側の立場に似ているようですが、ここで彼は、「自分の子供も、ひどい苦しみのなか3年で亡くなった。(そのオイルが仮に病因の脂質を下げるとしても、完治しないのなら、)この苦しみを長引かせたいのか?」と考えているわけです。どの人も、それぞれの立場で正しいと思ったこと(誰も間違ってはいないと思いますが)をやろうとしているわけですね。

さて、そのオイルは結局効いたのでしょうか?
ネタバレになっちゃいますが(実話に基づいた話で、人の名前や病院なども多くはそのまま使われている、と言うような映画なので、ご容赦を)、その後の顛末が医学書院のサイトに書かれています。 

医学書院/週刊医学界新聞(第2795号 2008年09月01日)

オドーネ夫妻が考案した脂肪酸エステルの混合物は,やがて「ロレンツォのオイル」と呼ばれるようになった。血中VLCFA値を正常化させるというニュースは,すぐさま患者の家族に知れ渡った上,1992年,ニック・ノルテ(父オーギュスト役),スーザン・サランドン(母ミケラ役)主演で製作された映画が大ヒット,ロレンツォのオイルについて「ALDに奇跡的治療が現れた」とする誤解が広まるのに時間はかからなかった。藁にもすがる思いの親たちは,こぞって患児にロレンツォのオイルを飲ませ始めたが,症状が改善する例はなく,期待が強かったぶん,失望と怒りが広まるのも早かった。しかも,ロレンツォのオイルは決して安い物ではなかっただけに(当時1リットル1000ドルと言われた)オドーネ夫妻を「いかさま師」呼ばわりする親さえ現れたのだった。

このサイトの記載には続きがあって、ぜひそこも読んで頂きたいのですが、映画の中でオイルの投与に協力しなかったと悪役に描かれている(僕は、悪役だとは思いませんでしたが)ニコライス教授(これは、実名ではありません)も、その後にきちんとオイルの効果の検討をし、治療効果は無いにしても予防効果があることを示し、詐欺呼ばわりされた夫婦の名誉を回復することになります。

ロレンツォとオーギュスト、ミケーラ、そしてニコライス教授(と言うか、本物の方)のその後も、このサイトに書かれていますので、ぜひご一読を。

 

ちなみに、映画の中でちらっと出てくる聖ロレンツォは、こちらかな?オリーブオイルには関係なさそうですね(いや、鉄格子の上での火炙りの時・・・イヤイヤ・・・)

オレイン酸だけを30ml飲むのは大変ですが、オリーブオイルは、還元力も高く(高いまま維持されるので)体にいいですよ、きっと。

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